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彼のピクニック

2006/09/01 15:37
前回のエントリーから、もう一カ月以上経ってしまった。
病気をしていたわけでもない。ただ、ビンボー暇ナシを絵に描いた
ような日々、とでも思っていただくしかない。
大事なことで、ここには書けないこともあったりする。

そんな中で、田村隆一さんの『ぼくのピクニック』(朝日文庫)を読んだ。
少し前に古書店で見つけ、軽い気持で入手してあったものだ。
しかし、読んでいるうちに、この本が、タイトルから想像しがちなように
“軽い”本ではないことに、少しずつ瞠目させられた。
「ぼくのピクニック」とは、すなわち田村さんの生涯のことであり、
その主要なトピックを淡々と書き綴ったこの本は、いわば田村さんの
“遺書”のようなものだったのだ。

大正12(1923)年生まれという田村さんの世代が、まさしく「戦中派」
であることは見やすい道理だし、随分前に読んだことのある田村さんの
詩が、戦争体験抜きには書かれえないものだったろうということも記憶に
残っている。しかし、田村さんがいわゆる「学徒動員」組で、茨城県
土浦にあった海軍練習航空隊、いわゆる予科練で訓練を受けていたという
ことまでは知らなかった。
つまり、まだ若く、とくに詩というものに傾倒したわけでもなかったぼく
には、田村さんの世代の戦争体験は、しょせん他人事でしかなかったの
かも知れない。

この軽妙なタイトルの小ぶりな本には、そんな田村さんの戦前と戦中と
戦後が、洒脱な筆致で、と同時にきわめて明瞭に、書き記されている。

たとえば、昭和17年秋の、当時19歳だったという自分について、田村さん
は次のように書く。

 ぼくは、自分自身が兵隊にかり出される悪夢にばかりおびやかされて
 いたから、江戸化政期の読み物をあさったり、古典落語に熱中したり
 して、自分をだます工夫ばかりしていた。  (「ぼくの成人式」)

ここだけを読むと、田村さんがただ臆病なだけの青年でもあったかのように
勘違いする人間も出てきそうなので困るのだが、実際の田村さんが背の高い
美丈夫であったことは周知の事実だし、そのお人柄は「いつでも陽気で乾いて
いた」というものだったらしい。要は、田村さんの文章には回想にはつきもの
の感傷や嘘や虚飾がまったく感じられず、読んでいてとても気持がいい。

――そういえば、この本を読んでいたのは、まったくの茶番でしかなかった
小泉首相の靖国神社参拝騒動の頃で、それだけに一層、田村さんの言葉は
身にしみるような気もした。

ごく普通の人間にとって、8月15日の「敗戦」はどのようにやってきたのか、
そして、「戦後」というものがどんなふうに始まったのかを知るにも、この
田村さんの“遺書”はとても貴重なものだろう。そして、もし時季を選ぶと
するなら、この本は、やはり夏に読むのがふさわしいだろう。
ぼくがこの時季にこの本を手に取ったのはまったくの偶然だけれど、結果と
して、とてもよい読書になったとも思う。

田村さんが亡くなられたのはほんの数年前のことだと思っていたが、
調べてみたら、もう8年も前の1998年8月に亡くなられている。そして、
朝日文庫の『ぼくのピクニック』も、現在は品切れになっているようだ。
毎年、夏になったら、全国各地の書店の店先に、この本が平積みになっても
いいだろうに、と思えるような一冊なのだが。

*この6月から、他社のサービスでブログを始めた。しかし、システムの相性も
 あるのだろうが、そこのサービスでは編集画面がまともに表示されることさえ
 まれで、要するに、まったく使い物にならない。それで、このwebryに切り
 換えることに意を決した。過去ログ末尾の[ ]内が、当初の投稿の日付けです。

http://blog.goo.ne.jp/hago06
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